あなたたちに似ようとしたのは、人恋しくてたまらなかったから


■妹モノ(仮)ひとつめ


 こんこん、と。軽くノックの音がした。
 美由は、やりきれない気分で扉の方を見る。
 出来れば、聞きたくなかった音。
 だけど、この場所で生きていくには、この音に応えなければならない――。

「……どうぞ。鍵は掛けていませんから」

 そんな彼女の声に答えるように、かすかに軋む音を立ててドアが開いた。
 扉の向こうから現れたのは、見るからに上流階級然とした、中年の男性だった。
 濃いグレーの背広(きっとブランド物なのだろう)を身に纏った彼は、
 美由に向かって小さく微笑みかけたのち、物珍しそうな表情で室内を見回した。

「なるほどねえ。特別にそれ用の部屋があるわけじゃあないのか」

 それ用、とはどういう意味だろうか。考えたくもなかった。
 黙り込む美由を見やりつつ、男性は室内に脚を踏み入れ、そして、部屋の中央付近に佇む彼女の脇を通り過ぎると、なにも言わずにベッドに腰を下ろした。
 ……随分と、気が早い。皮肉げにそんなことを思う。

「さて……とりあえず」

 静かに振り返った美由と、視線を合わせて。
 男性は、どことなく嫌らしく感じられる笑顔をその顔に浮かべて、言った。

「とりあえず、脱いでもらおうかな」

「…………分かり、ました」

 ともすれば刺々しくなってしまいそうな口調を、無理矢理に抑え込んで答える。
 美由は男の方に身体を向け、ブラウスのボタンに手をかけた。
 まったくもって気が進まない作業を、これから行わなければならない。
 その思いが、彼女の動きを鈍くしていた。
 ひとつひとつのボタンを外すのにも、随分と時間がかかる。
 そんな彼女の様子に、男は苦笑混じりに声をかけた。

「おいおい、そんなに焦らさないでくれよ」

 ……別に焦らしているつもりなどなかった。
 ただ単純に、見ず知らずの他人に肌を晒すのにためらいがあるだけ。
 だけど、ここでそんなことを言っても仕方がない。
 美由はなにも言わず、ブラウスの最後のボタンを外した。
 半ば投げやりな気分で袖から腕を抜き、畳もせずに床に落とす。
 そして続けざまににスカートも脱ぎ捨てた。

「……ほう」

 下着姿になった身体を、男が値踏みするように見ているのが感じられた。
 頬がかっと熱くなる。それを隠すように、美由は顔を俯けた。

「どうしたんだい? 手が止まっているよ?」

 残酷な男の言葉。
 やりきれない気持ちを飲み込むようにして、美由は腕を背中に回し、ブラジャーのホックに指をかけた。
 一瞬だけためらい、そして、ホックを外す。思考を止めたまま、まだ膨らみと呼べるほどの大きさですらないけれど、自分でも悪くない形をしていると思うその胸を、男の視線に晒した。

 ……そして、最後の一枚。一番他人に見せたくないところ、だけど、それでも何人もの男たちに見られ、触れられ、そして犯されてきた部分を隠す薄布も、同じように脱ぎ捨てた。
 もはや彼女を隠すものは何もなかった。
 男はベッドに腰掛けたまま、美由の未熟な肢体を、食い入るように見つめていた。
 その視線が、一点に寄せられる。

「おやおや」

 まだ幼ささえ感じられる美由のその場所を、穴が空くほどに見つめて、男は皮肉げに唇を歪めた。

「まだ触ってもいないのに……これは、どうしたことだろうね」

 男の言葉に、美由は俯く。
 小さな乳房の頂点、薄紅色の突起が、張りつめたように勃起していた。

「……さ、寒いから、でしょう」

 苦しい言い訳に、男は笑みをさらに大きくする。
 そして、ゆっくりとベッドから腰を上げると、美由のすぐ側まで歩み寄ってきた。

「…………っ!」

 微かに身を震わせる美由。
 その様子を楽しげに見つめながら、男は中腰になり、その顔を乳房へと近づける。

 ぴちゃり。

「んんっ……」

 ざらついた舌先が、乳首を舐め上げた。
 覚悟していたとはいえ、不意に与えられた刺激に、美由は思わず声を上げそうになる。

 ぴちゃり、ぴちゃ、ぴちゃ。

「ん……うんんっ……んああっ……」

 舌先でくすぐるように、ときには舌全体を使って擦り潰すように。
 男は執拗に突起を責め続ける。
 そして、その行為に応えるように、いつからか、美由は噛み殺した喘ぎを洩らしていた。


「んあ……あ、はああっ……!?」

 最後に一度、グミのような突起に唇を寄せ、大きく吸い上げて。
 男は美由の胸から顔を上げた。
 そして、からかうような口調で言う。

「おかしいな、寒いというから暖めてあげたのに。
 元に戻るどころか、もっと勃起してしまったよ?」

「それは……それは……」

 頬を赤く染めて言いよどむ美由。
 恥じらう彼女をよそに、男は彼女の肩に手を置いた。
 びくり、と美由の全身が震える。

 その初々しい反応に、男はくく、と楽しげな声を洩らした。
 そして、空いている方の手を、彼女の内股に這わせる。

「……あ、やめ、て……」

 思わず拒むような声を出す美由。
 男はそれを無視し、ゆっくりと、じらすように指先を進める。
 他人の手が肌を撫でる感触に、美由は段々と呼吸を荒くしていった。

「……ん……んん……」

 少女の柔らかな感触を、そして、声を上げまいと必死に堪える表情を楽しみつつ、
 男の手は、ついに彼女の中心へとたどり着いた。
 中指と人差し指を揃えて、幼い割れ目に合わせるようになぞり上げる。

「ひあっ……!?」

「おや、なんだろうね。どうして下着が湿っているんだろう?」

 なおも男は嬲るような台詞を吐く。
 そして、うっすらと濡れた下着の上から、彼女の秘所をなで回した。

「いや……いやぁ……」

 両手を男の肩に置き、押し戻すようにしながら、美由は恥ずかしそうに声を洩らす。
 しかし男は手を止めず――それどころか、指先を、下着の上から亀裂の中へと差し込んできた。

「ふああっ……!」

 下着のざらついた感触が、美由の敏感な部分を擦り上げる。
 微かに湿りを帯びていただけのその場所は、いつのまにか、男の手のひらをびしょ濡れにしてしまうくらいに潤い始めていた。

「すごいな……もうこんなにトロトロだよ」

「いや……ち、違い、ます……そんな……ふぅん……そんなこと、言わないでっ……あ、ああっ」

 大きく首を振りながら、美由は否定の言葉を繰り返す。
 そうでもしていないと、自分自身がとろけて消えてしまいそうな、そんな気がしていた。

 そんな美由の有様に、男は興奮した様子で指先を動かし続ける。
 そして愛撫を続けながら再び中腰になり、先ほど解放したばかりの彼女の膨らみに、再び唇を寄せた。
 まるで赤ん坊がするように、力一杯吸い上げる。その瞬間、

 「あ、ああっ……だ、ダメェェェェェェェっ!!」

 一際大きな声を上げて。
 くたりと美由の身体から力が抜ける。
 肩に当てていた手を腰に回して、男はその身体を抱き留めた。

「どうしたんだい、突然。貧血かなにかかね?」

 それとも、と。男は実に楽しげに言う。

「もう、イッてしまったのかな?」
 
 しかし、そんな男の言葉に答える気力など、今の美由には残っていなかった。
 ただ息を弾ませ、先ほどの刺激の残滓をぬぐい去ろうと努めることしかできない。

 そんな美由を、男はベッドまで引き連れていく。
 ろくに身動きもとれないまま、美由は柔らかいそこに押し倒されてしまった。
 ぼすん、と軽い音を立ててベッドに倒れ込む彼女の上に、男が覆い被さる。
 ごく自然な動作で彼女の両足を開かせ、したたり落ちるまでに濡れそぼったそこを露出させ、
 そして、いつの間にか露出させていた、固く反り返った部分を、ゆっくりと少女の秘裂に押し当てた。

「あ、あ……駄目、です……」

 未だにぼんやりとした表情で、しかし、それでも美由は拒むような、恥じらうような言葉を口にした。
 男は、そんな彼女に問いかける。

「やれやれ……こんな商売をしているっていうのに、どうしてそう恥じらってばかりかね?」

 どこか嘲りの色さえ感じられる男の言葉に、美由は瞳を潤ませて答えた。

「こんなの……商売なんかじゃ、ありません……」

 そう、これは美由にとっては商売などではなかった。
 自分はただ父の言う事に従っているだけなのであって、それ以上でもそれ以下でもない。
 お金を貰ったわけでも何かを買ってもらったわけでもない。
 ただ、娘としてこの場所で生かしてもらっているだけ。
 ただそれだけのために、彼女はこうして男に抱かれなければならないのだ。

 しかし男はそんな美由の心情を読みとろうとはせず、からかうように言う。

「なるほど……商売じゃあないのか。だったら……」

 言葉を途中で止めて、男は腰を押し進め始めた。
 とろとろに溶けきった少女の割れ目は、しかし、充分以上に彼自身を圧迫し、容易には侵入を許さない。

「ふああっ……だめ……入って、入ってきますぅ……!」

 悲鳴に近い声を上げて、美由が腰を引こうとする。
 しかし男はそれを許さず、両手を彼女の肉付きの薄い腰に当てて、力一杯身体を押し付けた。

 ぞぶり、と。

 湿った音を立てて、肉茎が完全に埋没する。
 ぎゅうぎゅうと締め付けてくる感触を味わうように、男は一瞬動きを止めた。

「はあ、はあ……あ、はあ……」

 息を荒くして衝撃を堪える美由。
 その表情に欲情を深くしたのか、男は軽く腰を引き、律動を始めた。

「ふぅ、んん……ん……んああ……」

 まるで襞のひとつひとつを味わうかのように、ひどくゆっくりとしたペースで男は動く。
 さっさと済ましてしまうには、この少女の身体はもったいなさすぎた。

「あ……はあ……はっ……」

「……おや?」

 男は訝しげに声を漏らした。
 組み敷かれ、ただ喘ぎ声を零すだけだった少女の腰が、微かに動いたのだ。
 男は好色な笑みをその顔に浮かべた。

「……やはりねえ。商売じゃないというのなら、なんなんだろうかと思っていたんだが。
 なるほど。君はこういう風にされるのが好きなんだね?」

「……! ち、違います! そんなこ……ふああっ!?」

 強い口調で否定しようする美由を、腰の一突きで黙らせて、男は言葉を……
 言葉で彼女を責めることを続ける。

「いや、違わない。君は見られただけで乳首を勃て、軽く触られただけで股を濡らし、
 そして、いざ挿れられてしまえば、自分から腰を動かすような淫乱なんだよ」

「違う……そんな……あ、はあ……ちが……んああっ!」

 懸命に否定し続ける美由だが、その表情は、いつの間にか恍惚とした色に染め上げられていた。
 肌には玉の汗が浮かび、両足はいつの間にか男の身体に絡みつき、そして、なにより秘裂の締め付けが、明らかに変わってきている。
 始めは彼を拒むようにきつく締め上げるだけだったそこが、彼の動きに合わせて、ねっとりと絡みつくように蠢動をするようになっていた。

 男は内心でほくそ笑んだ。
 この少女は、言葉で責められるのに弱いのだな、と。
 実際、すでに彼は嘲るような言葉を吐くだけで良かった。
 何もせずとも、もうすでに少女の方で腰をくねらせ、彼に刺激を与えるようになっていた。
 違う違うと懸命に否定しながら、それでも淫らな姿を見せる少女。
 その姿に、男は肉欲をさらに高めていった。

「……ちがう……んはぁ……ちがうのぉ……そんなんじゃ……あ、ああっ……うあ……」

 淫らがましく耳に絡みつく喘ぎ声。
 たまらず、男は彼女の乱れるがままに任せていた腰の動きを、自分の支配に取り戻した。
 平たい胸に手を這わせ、小さな突起を親指の先で擦りながら、男は腰の動きを早めていく。

「ああッ!!……すごい……あうッ!! ……そんな、奥までっ……
 とどくぅ!! ……あ……あああんっ……んんっ!!」

 いつのまにか否定する言葉を吐くのも止めて、少女は与えられる快楽のまま、今度は男を受け入れる言葉を口にしはじめた。

「ああっ!!……あん……あ……ふあああッ!!……い……いい……いいですぅっ!!」

 その言葉を口にした瞬間、美由の中でなにかが弾けたようだった。
 腰は男の求めるがままにくねり、男の手が身体を這いまわるたび、乳肉を揉まれ、乳首が摘まれるたび、少女はあられもない声を上げた。
 甘く濁ったその嬌声に、そして蠢く襞の感触に、男の限界が近づいてくる。

「……どう、かね……今、どんな感じなんだい?」

 息を荒らげながら問いかける男に、

「あぁ、あ、う………気持ち、いいです……気持ち良いんです……。
 だ、から……もっと……いっぱい……。
 あ、あぁ、うぅ……して、くださ……い……」

 もはや先ほどまでの拒みようが嘘であったかのように、美由は淫らな言葉を吐き続けていた。
 少女の声を聴きながら、男は頂点を目指し、律動を早めている。
 終わりが近づいていることに、彼女も気が付いたのだろうか。

「……だし、出して……わたし……の……奥に、して……
 ください……いっぱい……わたしの……
 いけない……あそこに……熱いの……いっぱい……」

 限界だった。
 男は大きく腰を突き出し、そして、少女の最奥に向けて、その獣欲を余すことなく吐き出した。

「あ、あ……ああっ! ふあああああああああああぁ!!」

 同時に、美由もまた絶頂に達していた。
 折れてしまいそうなくらいに背中を反らせ、腰を男のそれにぴったりと押し付けたまま、美由は感極まった声を張り上げた。

 数秒後。出すべきものは全て出したと言うように、男は腰を引き、ずるりとその肉茎を、彼女の中から引きずり出した。

「んんっ……ふあ……」

 自身を満たしていたものが失われていく喪失感に、美由は少し不満げな声を零した。
 注ぎ込まれた白濁が、こぽりと漏れ出す。
 絶頂の直後、うすらぼんやりとした感覚に包まれつつ、朦朧とした頭で美由は思う。

(……私、薬、ちゃんと飲んだかしら……)




 ばたん、と。どこか重苦しい音を立てて、扉が閉じた。
 男性は立ち去り、室内には美由のみが残された。
 どこか虚ろな表情のまま、のろのろと服を身に纏う。
 外すのに時間がかかったブラウスのボタンは、かけ直すのにも同じだけの時間を要した。
 ゆっくりと指を動かしながら、美由はひとり呟く。

「わたくし……わたくし、は……」

 男の言葉が、耳に張り付いて離れない。

 ――いや、違わない。君は見られただけで乳首を勃て、軽く触られただけで股を濡らし、
 ――そして、いざ挿れられてしまえば、自分から腰を動かすような淫乱なんだよ。

「わたくしは……淫乱……なの……?」

 違うと思いたい。あんな風になってしまったのはなにかの間違いで、本当の自分は、見ず知らずの他人に触れられて、あられもなく乱れてしまうような女ではない、と。そう思いたかった。

「だけど……」

 だけど。だけどもし、あの男の言葉が真実だったとすれば――。

「……う、ううぅ……」

 美由は顔を俯け、小さく嗚咽を漏らす。
 ベッドのシーツを握り締める手を、じっと見つめながら、掠れる声で言った。

「ごめん……ごめんなさい、兄様……」

 私は、兄様に好かれる資格なんて持ってないんです。
 兄様を支配する資格も、兄様に支配される資格も有り得ないんです。
 私は、身体だけじゃなくて、心まで乱れきった、どうしようもない人間なんです――。

 そんな彼女の自嘲じみた言葉は、暗い室内を静かに漂い、そして、彼女以外の誰かの耳に届くこともなく、孤独に消えていった。




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